安倍公房作品を手に取るのは「砂の女」に続いて二作目。
「砂の女」は時代的背景もあって陰気ながらも理解できる良作だったと思いますが、この「箱男」は…。
うーん、良くも悪くも問題作、って感じでした。
難解。いや、難解というか支離滅裂。冒険しすぎ。実験やりすぎ
詰め込み過ぎで省略しすぎ、って表現がたぶんいちばん正しいかな。
言うまでもなく作中のそれぞれの描写は実にリアルで興味深く、心臓に直接訴えかけるような不快なパワーが満載。
だけど、一作通して読むとこれはちょっとわけわかんなすぎる。
解説やらから知った情報によると、この箱男は書いていくうちに総ページ3000とかになったらしく、つまり本に収められているのはそのうちのほんの一部。
おそらく相当書いている当人が詰めて絞って切り捨ててってした結果がこの一冊なのだろう。
なので、その削られた全ページを読むことができればこの作品のいろんな謎は解けるのかもしれないと思うが、もはや書いた当人すらそれは望まないんだろうな。
時代に即した浮浪者の話、見ることと見られることの潜在的な欲望の話、麻薬の話、いろんな主題をそれぞれ鋭く引き出しつつ、深く考察させる余地を読者に与える手法はすごい、と単純に思うし、これはこれで面白いと言えなくはない。
でもちょっとこれは「作品」としては好みじゃないです。
個人の感覚ですが、狂人の日記をえんえんと読まされること自体は悪くないし嫌いじゃないけど、1冊の本という体裁で読むからには、それに求めるのはパッケージされた完成品。
最後の「。」を読み終わった後に「???」って思うんでなく、なんらかの納得できる「。」で締めくくりたいなと思うわけです。
実際「?」って作品も数限りなくありますし、もちろんそれらも高く評価されてるものもあれば、わたし自身おもしろいと思ってるものもたくさんありますけどね。
あくまで好みの話。
もっとも、読む人が読めばちゃんと解釈が存在する、わかる作品なのかもしれず、単にわたしの読解力や洞察力が不足している可能性もおおいに否めず。
なので「現時点では」わたしにはよくわからない作品でした。
いつかもう一回チャレンジしたいです。20年後くらいなら、また感性も変わってるかな。
そう思える作品が増えるのは嬉しいですね。人生の喜びです。