乱読派の読書メモ

本好きの本好きによる本好きのための読書記録

「エロイカより愛をこめて」青池保子

エロイカより愛をこめて 39

 

◆大好きな漫画

青池保子著「エロイカより愛をこめて」。個人セレクトベスト漫画10選に絶対入ってきます。

とはいえ、子供の頃は全然読んだことがなく、出会いはだいぶオトナになってからでした。

絵がいまいち苦手で、とっかかるのにちょっと気合が要る感じで正直敬遠してました。

 

が、読んだらなんて面白い…!

読み返し回数でもかなり上位に来る、読めば読むほど面白い大好きな漫画です。

現在39巻まで出ていますが、最終巻が出たのは2012年。続きはいつか描かれるのでしょうか。

エピソード完結型なので終わりは描かれなくてもかまわないといえばかまわないのですが、単純に大好きな作品なので、もっと読みたくはあります。

 

◆登場人物が魅力的過ぎて勝手に動いてる

もしこの作品をまだ読んだことがないあなたには「いちばんはじめのエピソードは我慢して読んで、あるいはいっそ読まなくてもOK!2話目からでいい!」とお伝えしたいです。

というのも最初に主人公の伯爵とともに主役級で扱われそうな雰囲気で出てくる3名は、以降まったく出てきません。

というか、2話目に出てくる少佐のおかげで(せいで?)漫画自体がまるで違う方向にすさまじく加速して転がっていきます。

わたし自身も1話目は「うーん、これおもしろくなるのかな?」と思いながら読んでいたので、少佐の登場でいっきにボルテージが上がりました。

 

この軍人バカ(←少佐)の登場で作品の方向性が固まり、硬派なスパイとちゃらけた泥棒のおかしすぎる関係性、どこまでもクソマジメでそれがゆえに生まれる笑いとが存分に縦横無尽に繰り広げられ、なんともほかに類を見ない魅力的な作品になっています。

 

少佐のライバル役で登場する白クマや子熊のミーシャ、おちゃらけロレンスなどまぶしくて直視できないほどの個性を放っており、なかでも個人的にはミーシャが大大大好き。

サングラスの似合う武闘派スパイ、ザ・ソビエトなやかん(←?)、でも家族には甘く頑固でおっかない親父。素敵です。生き生きしすぎです。

作品の更新が止まっていても、お国の情勢が刻々変わっていっても、この中の登場人物たちは今もどこかで確かに生きている、と感じられるほどのキャラ立ちです。

 

◆国際情勢に文化、美術、お国柄の描写も

おそらく作者が映画好きなのだろうと感じさせるシーンが随所に散りばめられていて、コマもどれも映画のカットのよう。

というか、エピソードそれぞれがまるごと一本の映画のようだと思って読んでいます。

主人公の伯爵はイギリス人、少佐はドイツ人でNATO所属、ライバル東側のミーシャたちはロシア。それらの人種と触れ合ったことがなくても、ああ、この国の人ってこういう感じなんだろうなと思いこませてくれます。

 

ほかエピソードごとに舞台となる国のあれこれが描かれ、地理関係はもちろん、国と国の関係性や、歴史、土地の成り立ち、文化のそれぞれも惜しげもなく詰め込まれていて、話自体の考察も重厚。この作品で学んだことや、きっかけで調べて学んだことなど挙げて行けばきりがないくらい、わたしにとっては欧州の教科書みたいなもんです。

それら緻密な描写の上に、伯爵や少佐という壮大な法螺をのっけて展開していくさまは実に見事としか言いようがなく。

 

何度でも何度でも読み返したくなる傑作です。