乱読派の読書メモ

本好きの本好きによる本好きのための読書記録

「プリズンホテル」浅田次郎

プリズンホテル 1 夏 (集英社文庫)

 

◆得体の知れないタイトル「プリズンホテル」

人生で面白かった本10選をあげるとしたらうっかりコレ入って来ちゃいます。

それが浅田次郎の「プリズンホテル」、夏~春の全4巻。

 

自分では絶対に手に取らなかったと思います、この本。

浅田次郎は嫌いじゃなかったけど彼の著名な作品はほかにいくらでもありますし、得体の知れないタイトルと全4巻という微妙に半端な長さで敬遠し続けただろうなと思います。

 

先年他界した父が入院していた頃、移動時間や待ち時間が増えた母が本を読むようになりまして。

リサイクルショップで件の本が1冊50円で売られていたのを購入したそうです。

 

読み終わった母が「けっこうおもしろかったよ」というので、それをもらって帰ってきました。

タイトルから内容はまったく想像できません。

四季で4冊に分かれていて、表紙のデザインは花札のそれ。いったいどんな本なのだろう。

 

食わず嫌いは損をするし、いっちょ読んでみるか、とまったく期待せずに読みだしました。

 

◆超ハマり、笑いが止まらない

それが、超ハマり。ぐいぐいどんどん。爆笑の嵐。

電車内での読むのマジ危険です。

 

こんなに夢中になって、笑って笑って笑い通しだった本は久しぶりでした。

 

ほろりとさせるさすがの手法やきらりと光る表現の秀逸さが、登場人物たちの必死でクソマジメな滑稽を通り越した様子をますます引き立てます。

 

ひたすら笑いが止まりません。

ギャグ漫画もコメディ映画もコントもバラエティもかなわない。笑いをこらえるのに必死。思い出しても笑っちゃう。

 

設定やら登場人物やらが前時代的で、暴力的で不器用でクソマジメに苦しんだり悩んだり。

序盤は古臭いアレコレが気になって特に女性は不快感を催す人もいるかもしれませんが、ぜひとも我慢して最後まで読んでみてほしいです。

読後の爽快感と、一抹の喪失感とが、実際に旅行へ行ったあとのそれに限りなく近いです。

読み終わってしまうのを心底残念に思った数少ない本でした。

 

好きすぎて面白すぎて読み返すのももったいない気持ちです。

あの世界にまた行きたいけど、行ったら帰ってくるとき寂しいしな、みたいな気持ち。

 

◆きっと人間が好きになる

個性の強い登場人物たちが違和感なく溶け込み、異常な舞台と異様な人々にもかかわらずそこには「どこにでもある人間の生活風景」と「どこにでもいる人間像」があります。

一生懸命で、それがために滑稽な彼らの姿は自分たちにすんなり重なるし、まさしく人間世界の縮図とも言える。

読めばきっといまよりも「人間が好きになる」こと請け合いです。

それは「どんな人間でも」って意味で。

 

まあでも、そんなしちめんどくさいことはさておき。

とにかく、笑えます。

 

浅田次郎はヒューマンドラマの代名詞みたいに感じていたけど、人間描写に長けているってことはそれだけ「なにがどんな感情を生み出すか」も理解しているってことで。

それはつまり、コメディを書かせても天下一品ってことになるんでしょうね。

 

これぞ彼の真骨頂、なんじゃないかと個人的には思います。

人生で是非読んでほしい本のひとつ、プリズンホテル。メチャクチャおススメです。