人との待ち合わせに4~50分早く着いたある日、そういえば以前もらった本200円分のクーポンそろそろ使用期限だったと思い出し、駅構内の新本屋へ足を踏み入れる。
ライト目なのを何か1冊買ってコーヒー屋で読もう。
だがしかしそういうときに限って決まらない。
アレもいいコレもいいと悩みに悩むこと数十分、待ち合わせ時間は刻々と迫ってくる。もう読むどころじゃないな、でもなんか1冊どうしても買いたい。
と、キレイめなお姉さんがいったいいつ現れたのか、わたしのすぐ横に立ち、まったく迷う様子もなくさっそうと1冊の本を手に取り風のようにレジへと進んでいった。
彼女の様子があまりにもスマートで、その彼女が選んだ本を買うことにした。この決心までわずか数十秒。
決まるときってそんなもんだよね。
そしてそしてその本が大当たり。お姉さんありがとう!
前置きが長くなったが、本作はいわゆる企画モノ。
三越の350周年企画で旬の作家たちにそれぞれ三越をモチーフに書いてもらったものを集めたアンソロジー。
いずれ劣らぬ知名度の作家たち勢ぞろいで、好き嫌いは別にしてこのクラスになると読みにくかったという感想はない。
でもまあ、無理矢理寄せてるなーとか、ちょっと苦しいなーとか、あくまで媚びないのねーとか、それぞれに感じるところはあって(それぞれ読んだ方はわかってくれるんじゃなかろうか)、全編面白かったわけではもちろんない。
とはいえ、その感じもひっくるめて「三越」テーマの1冊として非常に楽しめた。
随所で出てくる三越のアレコレは、現地へ行きたいなと思わせるに十分だし、自分自身1日がかりで三越に滞在して1本書いてみたい!と思ったし、これたぶんいつかやる。いつか(笑)。
この6本のなかで個人的に気に入ったのは2本。
1本は、ブレないマイワールドであきらかに異彩を放っていた伊坂作品。
ノスタルジー風に寄せたり、申し訳程度に取り入れたりではなく、あまりにも堂々と、そしていつも通り強引に、ライオンにまたがってあり得ない世界へ連れ去ってくれた。
うーん、伊坂氏はほんとすごいな。猛烈に伊坂作品が読みたくなった。
が、際立った1本はいまひとつのほう。
阿川佐和子作品。
すごくありふれててすごく平凡、なのだけど、どう言ったらいいかな、企画の意図をこれ以上汲み取ってる作品はほかにないって断言してもいい。
企画した三越、出版各関係者が「こういう感じの書いてほしいんだよね」ってイメージしていたまさにそのまんまの作品っていうか。
あくまで個人の感想ですが、そういう意味でパーフェクトな出来でした。
ほか4本もそれぞれに個性はありましたが、強く推したいのはこの2本。
企画モノはいろんな人のいろんな思惑が透けて見えて、それもまた面白さの一端です。
こういうのもっとたくさん読みたいなぁ。