つい近頃アカデミー賞を受賞したことでまた少し話題になっていた(ゴジラに食われた感は否めないが)映画「君たちはどう生きるか」は、去年夏の終わりに劇場で観た。
その時に開演まで時間があったので、同じモール内の本屋で同タイトルの本書を購入し、開演までの数十分で少し読み始め、そこから読了まで1か月近くを要した。
もう読み終わってだいぶ経つのでふんわりした記録になるがとにかく書いておこう。
当初から映画と小説に関しては「同じものはタイトルだけ」と言われていたので、もちろん内容の推測は映画を見る前も見た後もまるでできなかったが、なんというか、印象としては「小説」というより「教科書」な感じ。
いや語弊があるな、「教科書」に載ってるのだって「小説」の抜粋なんだから、小説は小説なんだろう。
でもなんかこう、なんだろう、うまく言えないんだけど。
「小説」ってのはもちろんいろんな「目的」を持って書かれていて、あるいは持っていないものもあるけど、書き手のいろんな手触り息遣いが直接的間接的に伝わって、そこに美しくあるいは故意に醜く装飾された言葉によって、読み手をさまざまな感情にさせてくれるもの、と大雑把に認識していて。
この吉野氏著「君たちはどう生きるか」からは、書き手の人間感がまるでと言っていいくらい伝わらない。
伝わらないんだが、それがけして不快ではない。
むしろ終始平坦で丁寧でどこか他人事な語り口は心地よくさえある。
面白かったし、描きたかったことがらもたくさん受け取れたし、しみじみ、ほのぼの、美しい精巧で清廉な絵画を見た後のような気持ちになったのだが、どうにも「小説」を読んだ読後感にはならなかった。
あとがきで知ったがこの著者はもともと物書きのプロではなかったそうな。
なるほど、だからこそ出せる独特の雰囲気なのかもしれない。
押しつけがましくならず、熱くも冷たくもならず、淡々と飄々と、ことがらの描写と人々の感情の描写を続けていくことで、一本の芯を持った物語が成立している。
楽しい、とか、エキサイティング、とか、感動、とか、そういうものは1枚かけたフィルターの向こう側にちいさな断片が含まれている感じで、だからどうにも道徳の教科書感は強かった。
誰でも無理せず疲れずしっかり読み切れて、かつ大切な何かを受け取れたりより深く考えたりできるという意味合いで、良書であることは間違いない。
映画とは共通するところもほとんどなくまるで違う物語なのだが、この本の持っている独特の雰囲気に抑揚と彩色を加えたようなものを作りたかったのかも、とは思う。
受ける印象としては遠くなかった。