お笑い芸人ピースの又吉氏が書いた自伝的小説。
芥川賞を受賞して話題になったのが2015年、読もう読もうと思っているうちに月日が過ぎてようやく読めたのが最近。
とてもいい本だった。なるほど話題になるわけだ。
お笑い芸人であることを前提に、自伝的な内容でかつ関西弁が軸であっても、ひとつの物語として読み手に確かななにかを残してくれる「物語」だった。
ジャンル分けが得意じゃないんだが、たぶんいわゆる純文学と呼んでも差し支えないだろうね。
荒唐無稽ともいえる先輩と、お笑い芸人という職業ゆえの、特に文字化すると悪目立ちする特殊さ突飛さ、でもそれらを脱線させずに包み込む言葉の美しさと情景描写の技術には正直舌を巻いた。
ああ、この人は本当に本をたくさん読んでいて、物語を愛していて、言葉を大切にしているんだなと感じられた。
冒頭とラストで描かれる印象的な花火のシーンはほんとうに脳内で何度も再生できるほど鮮明で、時間が経って本筋のストーリーが思い出せなくなってもわたしの頭の中の熱海の花火はいつまでも再生できる。それこそ実際に見たかのように鮮やかに。(←純文学ぽい表現をやってみたかった)
筆が良くてさほど長い作品でもないのでさらっと読み切れるタイプではあるんだけど、あらゆる意味でライトでは全然ない。
重いわけじゃないけど、癒しを求めて気軽に手に取る種類の本でもない。
そういう意味合いでも「純文学」って感じ。