井上靖というと教科書で「しろばんば」に出会ったのが最初。
押しも押されぬ大作家ですが、それほど数は読んでないかな。
風林火山=武田信玄と刷り込まれちゃってるが、こちらの作品の主人公は山本勘助。
片目片足で醜い外見だったというのが通説で、本作内でもそういうキャラとして描かれている。
まだ年若い晴信(信玄)のもとへ輿入れした諏訪の由布姫へ見せる、勘助の愛とも情ともつかぬ執着を軸として物語は展開していく。
戦国モノでありながら、一貫して描かれる勘助の奇形の愛。
これが井上靖ワールドとでもいうべきか、良くも悪くも読後感は戦国モノを読んだ感じが全然なかったな。
それはそれでもちろん面白かった。
勘助の目線から信玄をこれでもかと描いているにもかかわらず、謙信の姿がまるで見えてこないのに、意外なほど違和感がなかった。
普通、戦国モノを読んでいけば戦っている相手の情報や描写なども少なからず入ってきて、気づけば双方の像が結べるようになっていく。
でもこの作品では、謙信は最後まで名前とわずかな情報から得られるだけの人物だったし、それが逆に、戦国時代、自分が所属している世界以外のものごとを知ることが難しかった、噂話以外では姿かたちすらよく知らないのも当たり前、な当時のリアルが妙になまなましく感じて。
うーん、さすがは井上靖。もっといろいろ読まなくちゃ。