青池保子『アルカサル-王城-』を読み終えた。
ちょっとだけ斜め読みしようと触って結局最後までがっつり時間をかけて読み切った。
もう何回も読んでるんだが、やっぱりすんごい面白かった。
すごく史実寄りでありながら、そこに盛大にキャラクターが作られていて、歴史漫画としてものすごく重厚。
なのに、めちゃくちゃ面白い。
カスティーリャ王ドン・ペドロと、愛妾マリア・デ・パディーリャを軸に、王族、貴族、兄弟、隣国、フランス、イギリスまで巻き込んでいく大河のような物語だった。
まずドン・ペドロがとてもいい。
精力的で、苛烈で、まっすぐで、王としても男としても強い。無駄に強い。
ただその強さが、まわりの人間を幸福にするとは限らない。
むしろ彼が強烈であればあるほど、周囲の運命も大きく動かされていく。
マリアはただの「愛された女」ではなく、ペドロの人生と王国の物語の中心にずっといる。
形式としては愛妾から始まるが、ペドロにとっては最初から人生の芯に近い存在だった。
エンリケの執念深さもすごい。
異母兄弟であり、敵であり、最終的にペドロの前に立ちはだかる男。
ただの悪役ではなく、彼には彼の理屈と執念がある。
読んでるこっちはペドロ側に立ってしまうが、エンリケもまた、歴史の中で自分の位置を奪い取りにいった人間なのだと思うと、簡単には片付けられない。
ファドリケもとてもよかった。
最後まで完全な信用を受けられなかった人物として描かれてるのに、それでもとても魅力的だった。
疑われる側の悲しさ、信じきれない側の冷たさ、血縁だからこそ近く、近いからこそ遠い感じがよく出ていた。
アラゴン王もよかった。
二枚舌を使いこなし、立ち回りがうまく、なかなか信用ならない。
なのにどこか憎めない。ものすごく青池っぽいキャラ。
ああいう人物が出てくると、物語の政治部分が一気に面白くなる。
カブレラもそうだね。
臣下として、政治家として、そして物語の中の人間として、とても印象に残る。
ブランシュ王妃の描かれ方も面白かった。
単なる「悲劇の王妃」ではなく、物語に深く食い込む立ち位置で描かれている。
彼女の存在もまた、フランスとの関係をこじらせ、やがてイギリスまで絡んでくる大きな流れの一部になっていく。
ひとりの王妃の不幸が、ただの夫婦の問題では終わらない。
婚姻が政治であり、血筋が外交であり、女ひとりの扱いが国と国を動かしてしまう。
そのあたりがまさに中世王侯世界で、読んでいてぞくぞくした。
ロドリゲスと、エンリケの妹カタリナの悲恋もよかった。
その後のロペスの妹との縁談まわりも気が利いていた。
ただ悲恋で終わらせるのではなく、その後に別の縁が差し込まれることで、物語に少しだけ人間らしい余白が生まれている。
そしてロペス。
ロペスはもう、キャラだけで優勝だった。
最後の前後編で、彼の目線が使われていたのもとてもよかった。
この作品は、物語としてもいよいよ佳境というところで、連載が長く止まっていたらしい。
そのため最後の前後編は、かなり歴史書のように出来事が詰め込まれている。
それが単なる年表処理にならず、漫画として成立してる。
前編はロペスの目線。
後編は娘コンスタンシアの目線。
それぞれの視点を通して描かれることで、歴史の流れが人物の記憶として立ち上がってくる。
そこが本当にうまい。
結局、歴史の勝者となるのはエンリケの王朝。
ドン・ペドロの王朝はそこで途切れる。
だがその後、ペドロの娘コンスタンシアの存在によって、ペドロの血筋はその後の王統に戻ってくる。
結果、物語がとてもきれいに閉じられる。
勝ったのはエンリケ。
消えなかったのはドン・ペドロ。
この閉じ方が本当によかった。
青池保子作品はもともと大好きだけど、このアルカサルは、その中でもわりと異色。
華やかで、重厚で、生々しい。
歴史を題材にしたフィクションでありながら、史実をひもとく面白さもある。
人物たちはみな濃く、誰も単純ではない。
最後までぐいぐい読まされた。
重い。ちょっとつまみ食いする漫画ではやっぱり全然なかった。
でも、やっぱりめちゃくちゃ面白かった。今後も何度も読み返すだろう。

