1995年の大ヒット作。吉川英治新人賞、このミス1位、もちろん映画化済。
初読はたぶん2000~2005年くらい、今回は二読目。映画を見たことはないが織田裕二の映像は印象に残っていたため、観念してずっと彼のイメージで読んだ。
600ページ越えの分厚い1冊。読みやすさを考えると上下巻に分けてくれてもいいボリューム。
これを読み始めて、雪山の凄まじさを描いた本と勘違いしていたのが本作。
いやー、面白かった。
大好き。ミステリー、サスペンスというよりアクション映画な感じ。
無理矢理ジャンル付けをするならアクションものとか冒険ものとか、パニック系とも近くもある。とにかく映像的。映画見たことないのに映画見た気持ちになっていた。
たいしたことは書かないが以下いちおうネタバレ注意。
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壮絶な雪山の描写からスタートするが、話は過激派のダムジャックという方向へ。
もろもろツッコミどころは満載だが、アクションものはそれでもかまわん。
映画のほうの感想で散見された「ダイハード日本版」まんまな展開で、無茶だろオイってのの連続ではあるんだが、ディテールの描写がほんとうにすばらしく、語彙も驚くほど豊富で表現の幅が凄い。
とどまることなく次々と繰り出される七色の言葉を流麗で骨太な文章に組み上げる技術力で、無理目なストーリーに文句をつける暇もなく鮮明に映像が脳内に繰り広げられていく。
ことに雪山の描写は読んでる方が凍えるほどだった。
忘れ過ぎるわたしでさえ「雪山の怖さ」が一読のみでも印象に残っていた。二読目はさらに臨場感が増し、もはやマジで寒かったわ。季節柄もうそんな寒くもないのに毛布かぶって読んでたよ。
雪山もさることながらダムの描写もすごくよかった。作中の奥遠和ダムは実在する奥只見ダムをモデルに書かれたそうだが、行ってみたくなった。めちゃくちゃ取材したんだろうな。
そういや以前、ひっそりダムツアーとか流行ったことがあった気がしたんだが、今作もひと役買ってそう。
それらのディテールの精緻さに比べると過激派側の信念系の細かい描写は心細いほど希薄。シンプルにワルモノとして扱われている。
普通の小説なら正直それは物足りなく思うところだけど、今作はアクションものなのでわかりやすい勧善懲悪でもいい、という気持ちにさせてくれる。
もっとも、雪との格闘、敵との戦いのなかに見え隠れする己との戦い描写については賛否半々な気持ち。
情景描写からだけでじゅうぶん伝わる心理は多い。そこに心理描写を重ねられるとちょっとクドくなる。与えられた条件は同じでも感じ方は個人差があるので、押しつけを感じると飽きが出てしまう。それは読み手の好みもあるから悪いとは言えないけど。
…ってなんかエラそうに語ってますが、イヤイヤ、すごい面白かった。
この人の作品も、こういうジャンルのものももっともっと読みたくなった。
ちなみに今作と、1個前の「マークスの山」もだけど、それより前に読んだ「史記 武帝紀」でもすさまじい寒さの描写があってだね。
今年の冬は寒さを堪能したなぁ。やっと春が来た感じ。
また次に読む機会があるとしたら、冬だね。