こちらも読んだのは去年の秋ごろ。
わたしはあまり読書スピードが速くないため、有限の人生においてはあまりたくさんの本を読めないだろうと思っている。そのため、できるだけ読むものに偏りを持たせないために雑多な棚から雑多な本をほぼランダムに選ぶ習性がある。
著者カズオ・イシグロはノーベル賞を取ったって報道が頭の片隅に残っていたので手に取った。そっち方面のイメージは硬めで青臭く、人生の憂鬱を上質な筆で綴る、正直それほど好きなジャンルでないため、期待はしていなかった。
だがこれ、のっけからやられた。がっつりSFじゃん。
内容の大部分は青春小説と呼んで差し支えない文章なのだが、設定と根底に流れるものが、ファンタジーとはいえ非常に大きく重く考えさせられるもので、悲しいほど純粋な登場人物たちの持つ透明度とのギャップは非常に切なく、これまであまり読んだことのない種類のもので非常に面白く興味深く一気に読み切った。
作品内容とは関係ないが、日本語を使わない日本人が英語で書いた作品が翻訳されて届くという奇妙な現象もまたおもしろかった。
言葉は言葉で言葉を越える、みたいな感じ。
翻訳もの臭がしたわけではまったくなかったが、纏った雰囲気は日本のものではなかったので、SFではなくあえて海外小説に分類した。