エッセイの類というのはたいがい面白い。
いや、もうちょっと正しく言うと、「小説家の」エッセイは面白い。
そりゃそうだ。筆一本で飯を食ってる文筆のプロが身近なアレコレを、ものによったら自分と同じものを見たり考えたりしたあれこれを文章化してくれるんだもの、そもそも面白くないはずがない。
もちろんそこから得られる面白さの種類は小説とはまったく異なるけれども、まあとにかく面白いことは間違いない。
ではさぞかしたくさん読んでいるかというと全然そんなことはない。
べつに作品のイメージを壊してしまうとかで読み控えているわけでもない。
ただ、小説とエッセイと並んで置かれていたら小説を手に取ってしまうので、エッセイまで手が回らないってだけ。
だって注がれてるエネルギー量が悪いけど全然違うもんね。
片手間で書けるとまでは言わないけど、小説家の本分はやっぱり小説だからさ。
前置きが長くなったが、本作「勇気凛々ルリの色」は浅田次郎のエッセイ。
冒頭の数ページを立ち読みして即買った。すんげーおもしろいの。
氏の作品を読んだ順番としてはまず「鉄道員」で、それから時代物をいくらか、
「地下鉄に乗って」
からの「プリズンホテル」
という順番だったため、プリズンホテルが異色なのかと思っていたら、どうしてどうして、素に近い筆で書かれていたんじゃん。
きれいで物悲しい、ノスタルジックでときに壮大なロマンや時代の流れも感じさせるような文章を書く繊細な文芸人、というイメージがこのエッセイで完全にひっくり返った。
ザ・昭和のオッサン!
この頑固で気難しくくそめんどくさい、波乱万丈という表現でも足りない濃密すぎる人生を歩んできたオッサンの語りを聞くのは実に楽しい。
読むと言うより聞くという表現が正しい。
場末の居酒屋で見知らぬオッサンと酒飲んでる気持ちになる、当の氏は酒が飲めないらしいが。
ある程度時代に沿ったテーマを扱うのがエッセイなので、当時の世の中について回顧しながら読めばじゅうぶん面白いが、氏の人生においては「自衛隊」「三島由紀夫」「言えないような悪いことしていい暮らしをしてた」の三本が軸になっているため、その周辺の知識があるとなお面白かろう。
ということで合間でそれ関連を調べたりしてずいぶん長い期間読んでいた。
このシリーズ自体はまだあと4冊あるようなので、折に触れて読みたいと思う。
破天荒すぎていわゆるエッセイ、とは呼び難いが、いまはその数もめっきり減ってしまった昭和の頑固親父の昔語りを聞くには最適な本です。
文章は言うまでもなく読みやすく面白く、視点はドキッとするほど鋭く。
さぞ怖いオッサンなんだろうなー(好き)。