友人のお勧め。
三浦しをん作品は「舟を編む」しか読んだことがなかったのですが、それを期待して読むと印象の違いにどぎまぎします。わたしは幸い友人から事前に印象まったく異なるよという注意を受けていたのでだいぶましでしたが、それでも驚きました。
舟を編むで心地よかったライトさはまるで鳴りを潜め、濃厚すぎる描写で重苦しく話が進みます。
筆の良さは文句なしなのでもったりした重い話でも読むのは止まりません。
田舎の小島を舞台に取って、ささやかな人間模様が描かれるのかと思いきや突然襲い来る天災と、それによって奪われるあらゆることがら、保てない常識とそれらを凌駕する多種の暴力、人間の汚さ醜さ、身勝手な卑屈さらが存分に描かれます。
精緻な描写が不愉快ですらあります。
なにより驚いたのが、この作品が書かれたのが震災前であった、という点。
てっきり震災後に触発されて手がけたテーマなのかと思って読み進めていたので、読後にそれを知り驚きました。
細かい描写に関して正確性はわかりませんが、不快な匂いを感じるまでの想像力には感心せざるを得ません。
話の転がり方はわりと無理やり感もあり、ミステリーやサスペンス的要素もあり、どういったジャンルの作品と捉えてよいか迷う感じですし、ある程度展開も読めなくはないですが、先が気になることだけは請け合い。
読後の何とも言えない不快感も手伝って、結局何が書きたかったの?という気持ちにも正直なりますが、勢いがあって、読み進めたい!という牽引力が妙に強く働いて一気に読了しました。
細部はさておき、そのパワーは凄い。
読んでる間はずっとドキドキハラハラしていました。
ただ、あくまで個人的好みですが、勢いで読める作品にはワクワク感が欲しいです。
舟を編むとはある意味対極にある作品で、ここまで作風が異なると次にこの作者の作品を読むのがちょっと楽しみではあります。