◆第5回(2008年) 本屋大賞受賞
本屋大賞受賞作、伊坂幸太郎著。
実にすばらしかった。手放しで絶賛です。プロの作家はすごいですね!
その筆にはお金を払ってもいいと思わせるだけのたしかな技術力があります。
わけてもこの「ゴールデンスランバー」は荒唐無稽で無理のありすぎる話の展開に、卑屈になるでも強引に押し切るでもなく自然と読者を巻き込んでいく包容力があります。
硬質な印象の筆と、乱暴なまでに思えるストーリー展開に、丁寧に作り込まれた真実を織り交ぜることでみごとな世界のバランスを築き上げています。
◆展開は無茶なのに、なんかやたらリアリティ
話自体はかなりムチャクチャです。
想像力を目いっぱい働かせても追いつかないくらい、どこまでもファンタジーな設定。
それなのに、伊坂氏の筆にかかるとなぜこんなにリアルさが増すのでしょう?
まるで「実録!凶悪犯に仕立てられた男の逃亡の日々!」を参考にして書かれたノンフィクション作品のようにさえ感じられてしまいます(注:そんな本ありません)。
「筋書きに無理があっても作者の筆力で引っ張って行ってくれる」作品の代表作みたいです。
ページをめくる手が止まりませんでした。
◆伏線づくし。どこまで仕掛けるの!?
雛形が出来ていて、まさに文字通り縦横無尽に張り巡らした伏線を見事なまでにすばやく丁寧に引き揚げていくさまは芸術的とさえ言えます。
これが伊坂氏なのですね…!
ほんとうに安心して読める作家さんです。
ばらまきすぎたかに思える伏線の回収力はほんとうに見事としか言いようがないです。
それでいて、精密なミステリものには欠けがちの人間そのものに対する視線と、人間が持つ独特のぬくもりみたいなものもちゃんと忘れてはいないのです。
盛りだくさんに詰め込まれ、それでいて軽快に駆け抜けるように読み切ることができます。
実に満足した一冊でした。