◆毒舌が売り、爆笑問題・太田光の小説デビュー作
爆笑問題自体は好きで、その名義で書かれているものも過去にいくつか読んでいます。
筆の質はとても高く、たくさん本を読んでらっしゃるんだろうなと感じられます。
でも、毒舌キャラの太田さんを期待して読み始めると文字通り肩透かしを食らいます。
ふんわりとやさしい印象の寓話の数々。毒舌なんてどこ吹く風です。
◆ところどころに個性は滲み出ている
全9編の、それぞれ独立した短編集。
多少オリジナリティには欠ける印象はありますが、表題作にはよく個性が出ていました。
何が書きたいのか、が直球で伝わってきます。
ただ、ストレートすぎるあまり、くどいと感じる部分もありますね。
個人的には講談調の作品がもっとも気に入りました。
すばらしいリズム感と疾走感、コレでストーリーがもうちょっと骨太だったらなおよかったが、今後に期待です。
色物一本ではなく今後もやってほしいスタイル。何度も声に出して読みたくなります。
◆やさしくて美しい寓話の数々だからこそ…
どの短編も、愛とやさしさに溢れ、シンプルでストレート。
書き手の太田さんをテレビなどで見てその人柄に触れていると、文章と人柄がちょっとじょうずにリンクできない感じを受けます。
「太田さんの文章」を期待して読むとイメージとかけ離れ過ぎていて退屈に感じるかもしれませんし、「誰でもない誰か」が書いたものとして読むと、少し物足りなさを感じる部分もあります。
ただ、人生の美しい好ましい部分を懸命に描こうとする意志は伝わってきて、とてもとても美しい本であったことは確かです。
子供の頃に読んでいたら、もっともっと素直にすてきな本だった!と言えるのかもしれません。