◆主人公:財布!
宮部みゆき氏の異色といえるミステリ作品。
財布を語り口にストーリーを組み上げて行くスタイルで、作者の技術の高さにただただ感心させられました。
飽きさせず止まらせずちょうどいいスピード感で読み切れます。
「財布の視点」で人間たちのあれこれが描かれるという特殊な手法なので、「持ち主側」の感覚ではちょっと気づかないような描写も多くて面白いです。
◆持ち主だっていろいろいるもの
財布の中のお金には、それがどうしてそこにおさまっているかなんてそこまでの道のりは当然描かれてはいません。でも、お財布がモノ言う存在だったなら…?
刑事、犯罪者、死者、それぞれの財布は持ち主の行動や現金がどこから来たのか知っている。
たしかにお財布と言うのは生活の中でもっとも持ち主に密着して暮らしていると言っても過言ではありません。
自分の生活のあんなこともこんなことも見られている、知られている…って考えると、ちょっと恐ろしい気持ちになりますね。
◆持ち主が女性だと女性口調になる
擬人化された財布の語り口は、それぞれの持ち主の口調や調子になっています。
そのことで「財布が語っている」のでありながら、「財布の持ち主」がどういう人物なのかがよくわかるようになっていて、引き込まれます。
読み物として面白いのはもちろん、自分の持ち物をふと見直してしまうきっかけにもなりそう。
自分のお財布に名前でもつけて愛でてあげたくなること請け合いです。